第9回若手噺家グランプリ決勝が6月20日の火曜日に天満天神繫昌亭で開催されました。
出演者と演題は出演順に、
笑福亭笑利「神に誓って」
月亭天使 「オネガイ」
桂慶治朗 「いらち俥」
桂文五郎 「青菜」
露の眞 「こぶ弁慶」
中入り
林家染吉 「権助芝居」
林家染八 「くっしゃみ講釈」
桂そうば 「上燗屋」
桂ぽんぽ娘「シングルデブ」
そして栄えある優勝は桂そうばさん。
準優勝は林家染吉さんでした。
そうばさんはキャリア18年。
グランプリの出場資格が18年までなので今回が最後の挑戦でした。
そして見事にその最後のチャンスを掴んだのですが、それはびっくり仰天の・・・。
この若手噺家グランプリはアート引越センターの寺田千代乃名誉会長からのご寄付で始まったもので、優勝賞金が20万円、副賞がバカラのグラス。
そして準優勝が賞金5万円という若手の噺家にとって(若手に限らずですが)大きな魅力のあるものでした。
しかし、この日は・・・。
プログラムが順調に進み、トリのぽんぽ娘さんが終わり、審査員が別室へ移動して点数の集計が始まります。
舞台では上方落語協会の笑福亭仁智会長、アート引越センターの寺田千代乃名誉会長、そして司会の笑福亭銀瓶さんがつないでくれています。
集計が出て審査員でもある筆者(桂枝女太)が舞台へ出て発表。
そして表彰と順に進んで緞帳が降り無事終演となりました。
緞帳が降りた舞台上ではこの後の記者会見に備えてそうばさんと染吉さん、それに仁智会長と寺田名誉会長が会見の準備ができるのを待っていました。
そのとき、驚くべきことが・・・。
寺田名誉会長が、
「最近は物価が上がって若手の落語家さんも大変でしょう。今回から賞金を倍にしましょう」
「は・・・???」
一瞬なんのことか理解ができない落語家3人。
「え、倍ということは優勝賞金が40万円・・・ですか?」
「はい、準優勝は10万円。それに他の7人の方も決勝まで残って素晴らしい舞台をしてくれたので5万円ずつ」
「!!!!!」
いまどきこんな話ありますか。
賞金総額が一挙に3倍以上ですよ。3倍以上!
ここからは筆者の個人的な話しになり申し訳ないのですが、
私もこの世界に45年以上いる、いわゆるベテランといわれる噺家です。
繁昌亭にもしょっちゅう出演しております。
ご存じの方も多いと思いますが繁昌亭のすぐ近く、
天神橋筋商店街の中に「中村屋」というコロッケのお店があります。
美味しいコロッケと評判のお店で、私も家内からよく「繁昌亭の帰りに中村屋のコロッケ買うてきて」と頼まれます。買うものはいつも決まっていてコロッケ3個とミンチカツ1枚。
60超えた夫婦二人ならこれぐらいがちょうどいいのです。
しかし、いつも同じなのでたまにはと思い、150円のミンチカツを200円のトンカツにすることさえ私の独断ではできません。
それを・・・賞金総額25万円を立ち話のあいだの独断で85万て!
エンタテイメントの世界にいる人間が夢のない話をしてしまいました。
グランプリの記事に戻ります。
優勝したそうばさん
「今まで何度か挑戦してきて、制限時間にとらわれ過ぎて思うような結果を残せませんでした。今回はラストチャンスなので時間を気にせず楽しんで自分の舞台をやりました。そうしたら、たまたま時間内に収まって賞をいただけました」。
演者が楽しくなけりゃお客さんも楽しくないですからね。
当初の計画では来年の第10回をもって最終回ということだったのですが、これも寺田名誉会長のお計らいで再来年以降も続けて頂けることが決まりました。
ここ数年、コロナや戦争に物価高と我々演芸界にとっても暗い話題ばかりでしたが、久し振りに明るい話に出会えた一夜でした。
文・桂 枝女太