噺家お薦め

噺家お薦め~いっぺんおこしやす~ 桂米團治・亀の池 浪速編

今回ご紹介するのは、上方落語協会副会長・桂米團治さんお薦めのお店。繁昌亭の楽屋口を出てすぐの鰻料理屋「亀の池 浪速」
創業は昭和21年で、今年で73年に
なる。ちなみにこちらは取材はこれまで断ってこられたそうだが、今回は米團治さんからのたってのお願いということで実現した。インタビュー担当は桂枝女太編集委員長。


(左から桂米團治、桂枝女太)

米朝師匠がこよなく愛した味

小学生の頃、桂米團治さんは父・米朝師匠に連れられてよく天満宮界隈を歩いたという。
「親父が天満に詳しかったのは、きっと母親の影響やろなぁ」
米團治さんの母親、つまり米朝師匠の奥様は、菅原町の「桑田商店」という乾物問屋の長女として生まれた。
「今、(笑福亭)銀瓶くんと『雲州堂』というレストランでトークイベントをやらしてもらってるけど、あの辺りは昔いろんな問屋さんが軒を並べてたんや。桑田商店もそのひとつやってん」
駒ひかるという名でOSKのダンサーをしていた米團治さんのお母様と米朝師匠は戦後の巡業で出会い、昭和33年に結婚。「親父は姫路から出て来てるやろ。大阪にはあまり馴染みがなかった。それで最初はきっと母が天満界隈を案内したように思うねん」


(繁昌亭の楽屋口からすぐのところにある浪速)

「僕が子供のころ、この並びにあった『かど梅』という寿司屋には親父によう連れて来てもろてんけど、このお店(浪速)には連れて来てもろた記憶がないねん。ひょっとしたら、この店にはいつも女の人と来てて、子供は連れて来にくかったんかなぁ(笑)」
そんな米團治さんがこの店に通うようになったのは13年前から。
「繁昌亭がオープンする前にこの界隈を歩いたんや。ずいぶん変わってしもうたけど、看板を見て『あぁ、まだこの店やってるんや』と懐かしさのあまり飛び込んだんがきっかけや」


【うな重・上】

隠れたこだわり

ところで、今回は写真を撮るために「うな重(上)」を注文した米團治さんだが、いつもは「うな重(小)」に白ご飯を別に頼むのだとか。五代目米團治ともあろうお方が、ちょっとせこい…?
「いや、それには理由があんねん」
米團治さんに言わせると、現代人の病気の多くはおかずの取り過ぎが原因なのだという。
「駅弁かて昔はおかずが2でご飯が8の割合やった。今は半分がおかずやろ。あれがいかん。あれが現代人の病気を招いてるんや」
ここからしばらく続く米團治師匠による熱い健康講義。御歳60とは思えない若々しさと昔から変わらない体型を見ると実に説得力がある。
「とにかくここの白ご飯を食べてみぃ」
米團治さんは無類の「飯ッ食い」でも知られる。そんな師に薦められるまま、うな重とは別に白ご飯を注文。
「う、うまい!」と思わず叫んだのは取材助手として同席した林家愛染くん。
「ご飯てこんなに美味しいもんなんですね」
まるでご飯を初もんみたいに言いよった。
女将さんに米の銘柄を訊ねてみると、同じ銘柄でも水分の度合いなどで微妙に味が変わる。
そこでこの店ではいくつかの米をブレンドし、水加減を調整したうえで最良のご飯に仕上げるのだという。

贅沢な時間

「先代、先々代に少しでも近づけたらと思います」と語る店主に「我々と同じ伝承芸みたいなもんでんなぁ」と米團治さん。
落ち着いた雰囲気の店内での取材は心地よく、初めて訪問した我々取材班もまるで行きつけの店のようにくつろいでしまい、あっという間に時間が過ぎていった。咄家の色紙や落語会のチラシはもちろんのこと、余計な装飾や置物が一切ない清潔な店構えがそうさせるのだろうか。
「先々代が店を構えた当初からずっとこのままです」と女将。
繁昌亭の昼席前、もしくは夜席前にぴったりの営業時間。ぜひ時間にじゅうぶん余裕をもっての来店をお薦めしたい。鰻が焼き上がるのをゆったり待って、お重の蓋を開ける喜び・・・。
「亀の池 浪速」は、そんな贅沢な時間と味わいを心ゆくまで堪能できるお店である。


【清楚な店内】

お店情報

営業時間
11:30~14:00
17:15~20:00

定休日
日曜日・祝日、第一・第三土曜日(終日)
第二・第四・第五土曜日の夜(昼は営業致します)
但し、2月3月4月の第一、第三土曜日は不定休

文・写真 桂花団治

 

編集後記
私が米團治さんにこの取材をお願いしたきに「どうぞ食べてもらっていいですよ」と言ったら「いや、そのあと人との会食の予定があって、食べられませんねん。かたちだけお箸つけさせてもらいますわ」
それならそういうことに。で、いよいよ取材当日、時間はお店の昼営業が終わった午後3時過ぎ。うな重一人前をペロッと完食しただけでなく追加の白ご飯まで。
(会食の予定はキャンセルになったのかな)そんなことを思いながら私もしっかり完食。
取材後まだ時間があるというので喫茶ケルンへ。コーヒーを飲みながら
「あ、えらいことした。このあとの予定、ご飯食べやったんや。もうお腹一杯や、どうしよう」
(知らんがな)「完食どころかご飯のおかわりまでしてたからキャンセルになったと思ってた」
「なってないなってない、ああえらいことしたな。へへへ、だいたい僕こういう人なんです」
私も長い付き合いで普通のお人やないとは思ってたけど改めて、どういう人や。

桂枝女太

 

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