将来の名人

将来の名人に聞く【月亭八織 編】


月亭八織 つきてい・はおり  滋賀県大津市出身
2014年6月 月亭八方に入門

俳優から落語家へ 入門10周年の大舞台は「私にしかできないことを」

≪2024年10月28日、入門10周年記念公演「八織遊演地」を大阪のABC Hallで開催する。落語と演劇、音楽を融合させた、八織カラーが全開の舞台。チケットは公演2ヵ月前に完売した≫

師匠の八方、笑福亭鶴瓶師匠、もりやすバンバンビガロさんがゲスト出演を引き受けてくれはりました。特別企画として、私が演じる落語「死神」を、太鼓ユニット「我龍」のメンバーの生演奏とともに楽しんでいただきます。演出は、私の俳優時代の師匠、後藤ひろひとさん。落語と演劇が融合したようなステージになります。節目の年に、私にしかできないことは何かを考えて企画しました。
夏以降はその稽古にかかりっきり。本番で自分らしさを目いっぱい出せるようにがんばります。支えてくれはる師匠方に感謝です。

≪地元の高校を卒業後、両親に反対されるも俳優を目指す。大手プロダクション「オスカープロモーション」に所属し、大阪、東京を拠点とする生活が始まった≫

小学生のころから芸能の世界にあこがれて、その道に進むことを考えてました。
俳優としてTVの情報番組の再現ドラマや、端役ですけど時代劇の町娘の役とか、いっぱい出ました。京都・太秦の東映撮影所でも撮りましたね。並行してお芝居の勉強を続けました。
実は当時、八方師匠、八光兄さん親子と私が共演したTVドラマ(※1)があったのをすっかり忘れていて、共演に気がついたのは噺家になってから。びっくりしました(笑)

≪女優業に邁進する日々。ほぼ無縁だった落語との距離は意外な形で一気に縮まっていく≫

地方の友人から繁昌亭昼席に誘われたんですけど、落語にはほとんど興味がなくて。食事をおごってくれるというので、つきあったんです。それが落語との出会いです。一人で何役も演じる落語は、もしかしたら自分の芝居に役立つかも…と刺激を受けて、繁昌亭の落語入門講座に申し込み、受講を始めました。
講師の師匠方、噺家さんたちと顔なじみになるうち、「繁昌亭でお茶子(※2)、やってみぃひん?」とお声をかけていただいたんです。思い切ってお引き受けしたら、どんどん出番が増えて。多いときは繁昌亭で月の半分、お茶子をつとめてました。入門講座の修了時にもらった芸名が「大川亭陽観」だったので、噺家さんたちから「ようかんちゃん」と呼ばれてました(笑)

≪お茶子として落語の世界にどっぷり浸かり、自分が落語を演じてお客さんを楽しませたい思いが募っていった。月亭八方師匠に入門を願い出たが・・・≫

なんばグランド花月であった(月亭)文都兄さんの襲名披露公演でお茶子をさせていただきました。ゲスト出演の八方師匠の「稽古屋」が心に響き、一門の皆さんの雰囲気もよくて。日を改めて、八方師匠に弟子入りのお願いにあがりました。
師匠からは「あかん、(弟子に)とらへんで」と何べんも断られました。あきらめず何べんもお願いにいって「(俳優の)仕事を辞めてきました」。師匠も根負けしたのか、「……好きなときに来たらええわ」。やっと入門を許していただきました。
それから師匠が私の両親に会うてくれはって。師匠のお人柄にふれて、両親は安心したようでした。俳優の仕事をを快く思ってなかった両親、特に父に、初めて私の仕事を認めてもらえたと感じました。

≪入門してから、落語の稽古は戸惑いの連続だったという。ぶち当たった壁は、演劇と落語の演出の違いだった≫

演劇は基本、一人の役者が一人の人物しか演じないので、その役に100%なり切ろうとします。でも落語は一人で何人もの人物を演じ分けます。だから一つの役に入り込みすぎると、他の人物にすぐ切り替えられないんです。
それに、演劇は演出家がいて、役者はその要求に応えようとします。噺家は落語を演じながら自分で演出も考えないといけない。その違いに戸惑いました。落語のリズムを身につけるまで、ずいぶん時間がかかりました。

≪ヨガインストラクター、日本折紙協会認定講師と多彩な顔を持つ。自宅で文鳥を飼う趣味がきっかけで、仕事の幅も広げている≫

「じーさんとぴーぽっぽ」という子ども向けの絵本(※3)があって、お爺さんと文鳥のふれあいを軸に、命の大切さを伝える物語です。お爺さんとお顔が似ている(笑)小佐田定雄先生がこれを落語に改作し、文鳥好きの私が演じる機会に恵まれました。
大阪・梅田の阪神百貨店催事場のイベント(※4)でも、その噺を演じたんですよ。けっこう反響が大きくて。「鳥つながり」で仕事が広がりました。私には動物が出てくる噺が合ってるみたいです。

≪将来、演じてみたい演目は…≫

師匠の落語、「算段の平兵衛」「胴乱の幸助」もいいな、と思います。人情噺はやってみたい。特に女性(おかみさん)をメインにした「芝浜」をいつかやりたいですね。

文・んなあほな編集部

編集部注
(※1)朝日放送「よろず刑事(でか)」。2006年放送。八織はメイド役で出演。
(※2)公演中に高座で座布団、見台などを整える女性。「舞台番」「高座返し」ともい
う。関西の寄席では「お茶子」ということが多い。
(※3)第8回絵本出版賞最優秀賞を受賞。作者は小亀たく氏。
(※4)2024年6月開催の「心うるおう小鳥ガーデン」。

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