ホットニュース

将来の名人に聞く 【笑福亭笑利 編】


笑福亭笑利 しょうふくてい・しょうり
京都府宇治市出身  2014年9月 笑福亭鶴笑に入門

若手グランプリ優勝の注目株 7日連続の繁昌亭昼席トリに挑む!

≪2024年6月に決勝が行われた第10回上方落語若手噺家グランプリ(上方落語協会主催)で優勝。予選、決勝とも自作の落語でのぞみ、エントリーした35人の頂点に立った。コンクール出場者は、得意な演目の稽古を何度も重ねて本番にそなえるのが常だが・・≫

ネタは10日間くらいで考え、決勝当日、初めて舞台にかけました。「ネタおろし」です。オチは出番直前にようやくまとまりました。
他の出場者のほうがウケてたし、自分ではミスったところもあって。手応えは何ともいえなかったんですが、やれることはやり切りました。

≪グランプリ優勝を記念し、2025年3月10日から7日連続で、繁昌亭昼席のトリをつとめる。
入門から10年半の若手としては異例の大抜擢となる≫

まずは日頃から支えてくださっている皆様、繁昌亭スタッフの皆様、本番で力を貸していただける演者の皆様に感謝申し上げます。
先日、繁昌亭玄関前に出す大きな「まねき」の看板を見せていただきました。うれしい気持ちと同時に、自分にきちんと務まるのか不安な気持ちも湧いてきましたが、せっかくいただいた貴重な機会、責任を持ってやり遂げたい思います。

≪若手が対象の落語コンクールでは決勝進出の常連で、実力は折り紙付き。その芸は、周囲が驚くほどのハイペースで開いた自主公演で磨かれた≫

入門から10年の節目にあわせて、20ヵ月連続で古典落語ネタおろしの会を開きました(※1)。毎月、新しい噺を仕込んで、高座にかける。自分を追い込むタイプなんです。さすがにキツくて、一夜づけみたいな感じのときもありましたけど、お客さんが喜んでくれはったのが何より励みになりました。


「20ヶ月連続古典落語根多下ろし公演」@動楽亭

≪中学時代、ラジオでお笑いの世界にふれたのをきっかけに、高校卒業後、芸人の道へ。吉本興業の養成所に入り、漫才、コントに打ち込むが・・≫

中学のころ、ラジオでジャリズムさん、世界のナベアツさん(現・桂三度)たちの番組を聴きまくってました。ハガキでネタを投稿する常連になって。そう、「ハガキ職人」です。そこからお笑いの道を目指すのは自然な流れでしたね。

親は反対しましたけど、高校卒業から1年後、吉本総合芸能学院(NSC)に入りました。
2003年4月入学の26期生です。同期にかまいたち、藤崎マーケットらがいました。
NSCでの1年間は、コンビを組んでネタを講師陣に見てもらう、の繰り返しです。
卒業後、baseよしもと(※2)の劇場メンバーに選ばれ、いよいよこれからというとき。突然、コンビの相方が行方不明になったんです。この業界でいう「飛んだ」。
自分を追い込むタイプの僕は他人にも同じことを求め、知らないうちに相方を追い込んでいたのかもしれません。

それからコンビを変えながら、漫才、コントを続けたのは2010年ごろまで。
活躍が目立つ同期の連中と比べて明らかに差がつきはじめて。辞めたくはないけど、客観的に見て、もう辞めなあかん、いつまでもやってたらあかん。そう思うようになりました。

≪コンビを解消して芸の世界を離れ、各地を放浪。京都の母親から届いた知らせがきっかけで、心境に変化が生まれた≫

お笑いを見ることもなくなり、何の縁もない地方へあちこち行ってました。
農家に1週間くらい住み込む短期バイトにも応募しました。けっこう募集が多いんです。
新潟で稲の刈り入れ、トラックの運転とかもやりましたね。その日暮らしみたいな生活でした。

そのうち、京都にいる母から連絡がありました。「乳がんの手術が終わった」。
あわてて帰省したけど、お金はないし、母のために何もしてやれない。
せめて落語をやって母を笑わせたいと考え、ボランティアで落語会を始めました。
月に1回か2回主催して、自ら落語を演じることも。
漫才やってたころ、笑福亭鶴瓶師匠の落語を生で聴いたこともありました。ストーリーがよくできていて面白い。それが落語という芸の印象でした。

落語会を数ヵ月続けるうち、以前は「オレを見てくれ、売れたい」ばっかりだったのが「お客さんを喜ばせたい、楽しませたい」に100%、気持ちが変わってきたんです。
この気持ちならもう1回お笑いをやれるかもしれない。一から落語を勉強してみたいと思いました。
繁昌亭へも足を運ぶうち、笑福亭鶴笑師匠のことを知りました。
アフガニスタンに数週間滞在して難民キャンプに笑いを届けた、その帰国報告会に参加してみて感じました。「熱い! この人や」。

≪鶴笑師匠に入門を願い出て、落語の世界へ。師匠の指導方法は「教えない」ことだった≫

2014年9月末、繁昌亭の楽屋口で鶴笑師匠を出待ちしました。師匠が出てきはったんですけど、すぐに声をかけられず、後ろからついていき、JRの改札口の手前でやっとお伝えしました。「弟子になりたいんです」。
師匠の反応は「誰のですか?」でした(笑)

入門を許されて2年間の修業期間中、師匠は弟子に何も教えないんです。怒られた記憶もない。 弟子が伸びたほうへ伸ばすのが師匠の主義。あれこれ口出しをしない。
言われたのは「好きなようにせえ」「堂々とやれ」。
もうちょっと教えてほしい、と不安になるくらいでした。
パペット落語(※3)という独自の芸を編み出した師匠だからこその指導なのでしょう。
人から何を言われようが、自分を貫く強い意志を持たなあかん。
師匠のその姿勢にならい、僕も自分のカラーを出していきたいです。

≪研究熱心が高じて、風変わりな一面も持つ≫

理科が好きで、何でも一から知りたがる性分なんです。
たとえば、海水から塩をつくる。養蚕。イノシシをワナにかけて捕獲、解体。
全部、やってみました(笑)
ほかに、砂鉄を原料に、日本刀のもとになる玉鋼(たまはがね)という素材をつくったり。
落語家になる前、放浪時代にできたつながりで、いろんなことを教えてくれる人が各地にいて、ありがたいです。

≪将来、自分が伸びたい方向はしっかり見えている≫

資料を読み込んで、じっくり考えるのも好きで。
たとえば二宮金次郎、平賀源内ら歴史上の人物を題材に、笑いを盛り込んだ落語を創作してみたい。映画の原作になるような、歴史ものの大作をつくるのが目標です。
笑福亭のお家芸の大ネタ「らくだ」にもいつか挑戦したいです。50歳くらいで、かな・・
まだ先のことですが、目指したいですね。

文・んなあほな編集部  写真提供・笑福亭笑利

編集部注
(※1) 演目にもよるが、落語1席を稽古して舞台にかけるまで、普通は2、3ヵ月程度はかかる。
(※2) なんばグランド花月の向かいで、吉本興業所属の若手芸人の拠点となった劇場。2010年12月に閉館し、同じビル内の「5upよしもと」に移転。
(※3) 足や膝に付けた手製の人形を使うサービス精神あふれる演出で、国境を超えて爆笑を誘
っている。

関連記事

  1. ホットニュース

    あっぱれ鶴笑!! 六代目笑福亭松鶴生誕百年祭

    9月3日から9日にかけて繁昌亭ならびに動楽亭で六代目笑福亭松鶴生誕百年…

  2. ホットニュース

    大阪・ミナミに若手研鑽の場 誕生 ―こけら落としは9月28日 福枝、智丸、秀都三人会―

    落語家が公演、稽古など多目的に使える貸しスペース「笑仁亭」が大阪・日本…

  3. ホットニュース

    四代目 桂春團治 誕生

    2018年2月11日(日)、大阪道頓堀『松竹座』において、…

  4. ホットニュース

    若手噺家グランプリ、すべての決勝進出者決定!

    第9回若手噺家グランプリの4回の予選、すべてが終了し、決勝進出者9名が…

  5. ホットニュース

    繁昌亭15周年記念特別公演 9/20(月)~26(日) 林家染丸一門ウィーク ”染丸監修”染丸襲名三…

    突然ですが、今年は林家染丸襲名30周年という記念イヤーってご存知でした…

  6. ホットニュース

    繁昌亭、6月はお休みです

    2006年9月15日にオープンした「天満天神繁昌亭」過去にメン…

おすすめ記事

最近の記事

  1. 将来の名人に聞く 【笑福亭笑利 編】
  2. 桂ぽんぽ娘の『はなしか1000円クッキング』
  3. 将来の名人に聞く【月亭秀都 編】
  4. 三題噺のチャンピオンは誰だ!? 予選突破の6人が激突 
  5. 噺家15周年 〜翔ぶトリウィーク〜 インタビュー 福点編 

アーカイブ

  1. ホットニュース

    大阪・ミナミに若手研鑽の場 誕生 ―こけら落としは9月28日 福枝、智丸、秀都三…
  2. ホットニュース

    【特集】神戸新開地・喜楽館、開場までのカウントダウン①
  3. 落語名所

    笑福亭仁勇の上方落語紀行
  4. ホットニュース

    おんなの館・繁昌亭
  5. ホットニュース

    四代目 桂春團治 誕生
PAGE TOP