会長のご挨拶 9月
いつも上方落語を応援いただきありがとうございます。
9月に入りファーストフード店恒例各店自慢の「月見バーガー」が期間限定で一斉に発売されました。
今年は「月見シュー」「月見プリン」などが新たに参戦、これを月見戦争というのだそうです。
日本人にとって「月」は古くから特別な存在でした。百人一首にも「秋風に たなびく雲の たえ間より 漏れ出づる月の 影のさやけさ」(左京大夫顕輔)と詠まれたように秋の澄んだ空に浮かぶ月は、特別です。
「異境で見る月」「雲に隠れた月」「有明の月」など月を愛でる和歌が10首以上あり如何に月と共に暮らしたかが伝わってきます。
子供の頃我が家では、中秋の名月の時、すすき、おにぎり、小芋がお供えしてあり冷んやりした静けさに季節の移ろいを感じました。
日本人は月を見ると「うさぎの餅つき」を思い浮かべますが、ヨーロッパでは「カニ」、インドでは「ワニ」、アメリカでは「女性の横顔」などと見立てるそうです。
二人の酔っ払い
「酔うたな」
「べろべろや」
「何時間飲んでるやわからん。もうおひさんが出てるで」
「あほ、あらお月さんや」
「おひぃさんや」
「おっつきさんや」
「わしら酔うて分かれへん。向こうから来る人に聞いてみよ。すんません」
「なんでちゅか?」
「向こうに出てるのん。おひぃさんでしょうか、おっ月さんでしょうか?」
「あれですか?すんません私この町内のもんやないのんでわかりまへんわ」
月とともに秋といえば秋の七草「萩・桔梗・クズ・藤袴・オミナエシ・ススキ・撫子」。秋は春と違い観賞用そしてその多くは薬草として暮らしに取り入れられています。
落語にもいろいろ登場します。梅、みかん、なんきん、胡椒、こんにゃく、青菜。
「医食同源」食から病気予防や健康維持につなげる生活は、庶民の日常を描く落語にも常に登場します。
池田へ冷えに効く猪肉を買いに行く「池田の猪買い」、冷やかし帰り小腹が空いたら屋台のうどん「時うどん」、冬場風邪ひきには身体を温める「かぜうどん」、夏場はさっぱりと鯉の洗いに柳陰「青菜」、甘党が計略で友達から色んな饅頭を頂戴する「饅頭怖い」、フグは食べたし命はおしし「河豚鍋」、、、。
すみません。皆さん自分で調べてください。
落語に出てくる食べ物は決して豪華ではありません。青菜、うどん、豆腐、漬物等など庶民の日常にあるものばかりです。けれども、その一つひとつに季節感があり、ちょっとした洒落や人情とともに描かれ、またそれも庶民の日常にあるものです。
冬には鍋、正月には雑煮、春には花見酒、夏は川涼み打ち水と井戸で冷やした酒、と日本人ならではの季節の味わい方は残したいものです。
そこでまだまだ暑い今年の秋の夜長は、月を眺めながら、落語の噺を思い浮かべ、青菜のお浸しや冷酒をすする。そして締めは「月見バーガー」。新しい日本人の季節の楽しみ方なのかもしれません。
9月の天満天神繁昌亭は周年記念月、おかげさまで19周年を迎えます。天神橋筋商店街様のご協力でアーケードに幟を上げていただきました。
是非、幟のトンネルを潜って、落語を満喫して、商店街で落語に出てきた食べ物を味わってお帰りください。
そして、今年もやります「噺家15周年“翔ぶトリウィーク“」
月亭天使(9月22日〜)から始まり、桂あおば(9月29日〜)、桂鞠輔(10月6日〜)、桂紋四郎(10月13日〜)と続きます。
神戸新開地喜楽館は、9月15日から「敬老ウィーク」、9月29日から「笑福亭枝鶴・桂文之助・笑福亭学光芸歴50周年記念ウィーク」
皆さん、お待ちしてまっしぇ〜!!
公益社団法人 上方落語協会
会長 笑福亭仁智