公益社団法人 上方落語協会

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会長のご挨拶 10月

 いつも上方落語にご声援いただきありがとうございます。

 コロナの3年間を取り返すように、選手の躍動と観衆の盛り上がり、まさにスポーツの秋。
 MLB大谷選手のホームラン王、そしてMVPの話題からWシリーズへ、菊池、前田、藤浪の活躍。AREからの阪神タイガース。欧州での三笘、久保の活躍。やり投げの北口選手。バレーボールW杯、体操世界選手権等など。

 特に盛り上がるアジア大会。
 今大会は中国開催だけに、陸上競技や水泳などお馴染みの競技のほかに、太極拳、ドラゴンボートや、頭のスポーツとして中国発祥の将棋「シャンチー」、囲碁ほか、東京2020より多くの競技が行われ、いろいろな競技を楽しめる「寄席」的色合いを感じるまさにアジアの体育祭を感じます。

 落語でスポーツを題材にした噺は、「パンチ・パンチ・パンチ」(ボクシング)、「憧れの甲子園」(高校野球)、「ゴルフ夜明け前」(ゴルフ)、「スタディーベースボール」(プロ野球)。古典落語で探すなら、頭のスポーツ「笠碁」(囲碁)でしょうか。

 では、ここで足の速い男の小話。
 町内で一番足の速い男が走ってるので、
「おい、どうしたんや」
「今泥棒を追いかけてるんや」
「お前みたいな足の速い男に追いかけられた泥棒は大変やで。で、泥棒はどないした?」
「うん、後から来る」

 そして、天高く馬肥ゆる秋、実りの秋。
 直近のニュースで、サンマの獲れる漁場が変わったとか鮭が獲れずブリが豊漁だとか、無毒のフグや牡蠣の養殖。松茸の人工栽培。と、自然との闘いの中、農業も漁業も科学的改革が進んでいるようです。

 では、ここで秋の実りの小話。仁鶴が寄席で時々演っていました。
 柿と栗が木の上で、
「寒なりましたな。栗さん」
「柿さん。あんたは温いでしょ。渋着て皮着て」
「何言うてなはんねん、栗さん。あんさんこそ渋着て皮着てイガイガまで着て、温いでっしゃろ」
「いや、柿さんの方が温い」
「栗さんの方が温い」
言うてますと、松茸が下から、
「あんたらなんなと着てなはるさかいよろしわ。わたいら、ふんどしもしてしまへん」

 お口直しで、もう一つ。これも仁鶴がよく演ってました。
 お百姓さんが畑仕事終えて帰りかけると、カラスが「クワー、クワー」
 「そうや。鍬忘れた。よう教えてくれた」
 取りに行って家まで帰って来ると、ニワトリが「クー、クー、クー」
 「やかましい。クー、クー、クー、クーと食うことばかり言いやがって。カラスはちゃんと「クワー、クワー」て、鍬忘れたん教えてくれたわ」
 すると、ニワトリが「トッテコウカー」
 「もう遅いわい」

 芸術の秋
 9月の末にNHKの番組で、歌人若山牧水の生家があり、元近鉄バファローズのキャンプ地、宮崎県日向市で行われた「牧水・短歌甲子園」の模様を特集しておりました。日本語の魅力、言葉の魔力を強く感じました。

 以下、主な受賞作品をご紹介します。
 個人入賞者は次のとおりです。
 【牧水賞(個人戦)】自由題】
  [埼玉県] 星野高等学校 3年 佐野 史絵那さん
  母に似た言葉遣いと表情は敵になったり味方になったり

【若山牧水記念文学館長賞】
 [東京都] 都立武蔵高等学校 1年 安田 湖夏さん
  求めてた言葉出るまで脳内で告白ガチャを回す爆死す

 【日向若山牧水顕彰会長賞】
  [宮崎県] 尚学館高等部 2年 東木場 葵さん
  ドア閉まり君と二人のエレベーター上がりっぱなしの恋エネルギー 

 【俵 万智賞】
  [東京都] 東京都立武蔵高等学校 1年 安田 湖夏さん
  ダッシュから競歩に変わる点滅の青信号のあと一歩半

 ちなみに、若山牧水の代表作品は、
 「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり」
 特に私の共感する作品。
 「足音を忍ばせて行けば台所にわが酒の壜は立ちて待ちをる」

 そして、予選の作品の中で、刺激を受けた作品。
 「ワクチンがないから今日も渦巻いて消えない新型コトバウイルス」 藤井渚央さん
 やはり言葉には、パワーと魂が宿ります。言葉を扱う仕事をしているものとして大切にしなければと思います。

 今月も天満天神繁昌亭、神戸新開地喜楽館では、言葉を駆使して笑いを提供しています。刺激のある言葉(おそらく害はないです)を浴びにお越しください。

 公益社団法人 上方落語協会
 会長 笑福亭仁智