会長のご挨拶 3月
いつも上方落語に温かい風を送っていただきありがとうございます。
さて、2月末「落語協会百年興行グランドフィナーレ」千穐楽公演にお招きいただき、その歴史と伝統の力をたっぷり味わわせていただきました。
番組は、まず記念口上。
板付で幕が開くときの拍手の力強さ、そして粒揃いの客層の目力にお客さんの期待感が伺え、司会進行の林家正蔵副会長、「百周年と言うことでどこでやろうかとなり落語協会としても歌舞伎座でもよかったんですが(大爆笑)、池袋演芸場というのが誠に当協会らしいじゃないか云々」、「まずは、上方から早朝の新幹線でスーツケースを転がして、スーツでしかも楽屋見舞いまでいただいて云々」に適度に反応する上質のお客さんに心地よい緊張感を感じ、自分でいうのもなんですがわりといいお祝いのごあいさつが出来ました。
続いて、正蔵師と昇太師の人間関係からか小気味のいいやり取りの後、らしいごあいさつ。
最後は、落語協会会長柳家さん喬師匠の温かい人柄が滲み出る御礼のごあいさつと三本締め、おまけに大阪締めまでさせていただきました。
あっという間の20分。
あとは、6本の落語と2本の色物。私も入れていただきましたが、まさに8人がトリへ打順をつなぐ“This is YOSE”の百年の歴史を感じるチームプレイ。トリの柳家さん喬師匠が、落語協会百年興行グランドフィナーレに相応しい落語「百年目」で見事大団円。1年間にわたる百年興行百公演以上の成功、千穐楽楽屋の雰囲気、前座・見習いさんの気働き、お客さんの反応と、たっぷり落語協会百年の歴史の空気を吸わせていただきました。
ところで、さん喬師匠の「百年目」は、もともと古い上方のネタですが、江戸でも古くから演じられています。
そんな東西のネタの交流は古くからありましたが、落語は大衆芸能、それぞれの地域文化に合わせて脚色されています。
例えば、これから花見の季節、花見を題材にした上方落語「貧乏花見」、江戸ではタイトルも「長屋の花見」となり江戸の噺家が演る時に江戸の庶民生活に合わせて脚色したものです。
上方では、朝雨が降って仕事にあぶれた貧乏長屋の連中が、家にあるお茶や残飯を持ち寄って金持ち気分で花見に出かける。江戸のそれは、ケチな大家が、長屋の連中を花見に誘うが、実は酒ではなくお茶で卵焼きはたくあんで代用する花見。どちらも土地柄や気質を映した噺になっています。
一番わかりやすいのは、「時うどん」。江戸では「時そば」として演じられ、それぞれの文化や考え方が色濃く脚色に反映しています。
上方は、色街を冷かして帰る2人ずれ、腹が減ったので金を出し合うが、2人合わせて1杯のうどんを食べるにも1文足りない15文しかない。兄貴分が一計を案じ、一杯のうどんを2人で分けて食べて勘定する時1文誤魔化す。これはいい方法だと弟分が翌る日全く同じようにしようとするがうまくいかないで失敗する、わかりやすいA、A‘のお噺になっています。
一方、江戸の「時そば」は、屋台の蕎麦屋で一人の男が、そばをうまいうまいと褒めながら食べ1文誤魔化して帰る。それを陰で見ていた男がやはり次の日同じようにしようとするが失敗するというお噺。
手本通りにやろうとするが失敗する面白さは同じですが、上方と江戸、言葉も含め地域に合わせ脚色し地元の人により身近に見ていただくのが大衆芸能の基本なのです。
あなたはどちら派?
おそらく昔は、県民性で「わかりやすくて面白い」、いや「わざとらしい」など地域性で好みが色濃く分かれたかと思いますが、今ではそれも薄れ好き嫌いは個人の好みとなり、上方でも「時そば」パターンの「時うどん」に出会えるようになりました。
歌舞伎や文楽も、以前は江戸と上方では土地柄を反映した演目が上演されてきましたが、現在は垣根がなくなりつつあります。またそれを、新鮮に感じ期待されるお客様もたくさんいらっしゃいます。
3月の繁昌亭・喜楽館の定席昼公演で東西の落語の歴史と文化、脚色の違いも味わっていただけるとより落語が面白いと思います。
是非暖かい陽気に誘われるように、ふらっと寄席へお立ち寄りくださいませ。
公益社団法人 上方落語協会
会長 笑福亭仁智