会長のご挨拶 6月
いつも上方落語にご声援いただきありがとうございます。
6月4日は、「虫の日」。
漫画家の手塚治虫さん、解剖学者の養老孟司先生がそれぞれ呼びかけ制定されたそうです。
そもそも昆虫の起源は、約4億5千年前にさかのぼると考えられ、人類の約700万年前とは比べ物にならない大先輩なのです。しかも地球上の全生物の8割を昆虫が占めるとのことです。
その割には、虫が好かん、虫の居所が悪い、虫の息、虫唾が走る、虫の知らせ、虫がつく、獅子身中の虫など何故か良い慣用句があまり見当たりません。
落語では、「疝気の虫」、そして「夏の医者」や珍しい「田之紀」に虫と言えるかわかりませんが、うわばみが登場します。
「くっしゃみ講釈」では、喜六が講釈師の仕返しに成功した時に思わず口をついて歌ったフレーズ「🎵オケラ、毛虫ゲージ、蚊にぼうふり、せみかわず。やんま蝶々にキリギリスにはたはた。ぶんぶの背中はピーカピカ」は、如何に虫が生活に身近な存在であったかを感じます。
他人に感情を言葉にして伝えるのは、非常に難しく「くっしゃみ講釈」の喜六が、恋路を邪魔された講釈師にくっしゃみをさせることに成功し、溜飲を下げた時の気持ちが実に良く伝わる表現だとこの脚色を入れた噺家に感服します。
「へっつい盗人」では、道具屋に友達への引っ越し祝いのへっつい(かまど)を盗みに行くくだりで、喜六(ボケ)と徳兵衛(ツッコミ)のコントのようなやり取りの最後に怒りがピークに達し、「あほ、ボケ、かす、スカタン、ひょうたん、ラッパ、空気、ヘタ」などと叫ぶ場面があります。そこには、「失敗の連続に怒り、叱咤、呆れ、哀れみ、諦め、諭し、同情、そして愛情すら感じる」表現で二人の関係が描かれています。
落語は、会話を積み重ねてお客様にストーリーや感情を想像していただく芸なので、如何に的確に伝わるように表現するかが重要なセンスの磨きどころとなります。
落語ほど、擬音・擬態語(オノマトペ)の多い芸はないのでは無いでしょうか。その発明家が初代春團治。初代春團治の「へっつい盗人」は正にオノマトペの宝庫。
道具屋で竹の垣を音がしないように片付けるように言われた喜六、
「音さしなや」
「うん。カラカッチカッチ」
「これ!言うてるしりから音さしてるやないか。じんわり行きや」
「うん。カラカラ、カラカラ、カラカッチ、カラカッチカッチカッチ、ドンガラガッチャ、プープー」
「どうしたんや、どうしたんや」
「竹の垣の先の紐が石灯籠の頭に結んであって、引っ張った拍子に石灯籠の頭を落として」
「音さしな、言うてんのに。で、プー、プーちゅうのはなんや、プー、プー言うのは?」
「表に三輪車が置いてあって、ヒョロつく拍子に三輪車のラッパに手をつかえて」
「情けない奴やなぁ。音さしな、言うてんのに。で、三輪車のラッパならいっぺんでええがな。いっぺんで。2回鳴ったがな」
「あんまりええ音やさかい、また押さえた」
「どやしたろか!」
さらに、
「わいちょっと小便してくる」
「音ささんように向こうでせえ、音ささんようにな」
「うん。ジャーア!」
「これ、おんなじとこへせんと方々へ散らせ!」
「うん、ジャジャジャアジャアジャアジャア」
「そうそう」
「ジャジャジャアジャアジャアジャア。バサ、バサ、バサ」
「どうしたんや」
「竹の皮にかかった」
このあと、徳さんの「あほ、ボケ、かす、スカタン、ひょうたん、・・・」と続く。
他にも、「仏師屋盗人」の盗人が戸を外す音「ベリバリ、ボリバリ、ボリバリ、ベリバリ……、ベリバリボリ」
先ごろ亡くなった長嶋茂雄さんも会話にオノマトペがどんどん飛び出し、「野球教室」で熱が入り「ビューンと来たボールをバーンと打つんだ」「ビューンと、そうグッと」などと擬音の連続で、少年たちは、正に「ポカン?」としていたということです。
考えや表現を伝えるには便利なオノマトペ、伝わった気になり解った気になることが大切なのかもしれません。
オノマトペをチェックしながら落語を聴くのも楽しいかと思います。是非お試しを。
天満天神繁昌亭では、
6月9日(月)から、力造・米之助・惣兵衛「三人同時襲名披露公演ウィーク」
6月16日(月)から、「桂福団治 噺家65周年記念特別公演ウィーク」
神戸新開地喜楽館では、
6月16日(月)から、「笑福亭笑利 上方落語若手噺家グランプリ 優勝お祝いウイーク」
6月23日(月)から、「プロ野球応援ウイーク」
しとしとうっとおしい梅雨空をワッハワッハと笑いで吹き飛ばし、ジャンジャンバリバリどどーんと体力つけて暑い夏に備えましょう。ペケペン。
公益社団法人 上方落語協会
会長 笑福亭仁智