公益社団法人 上方落語協会

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会長のご挨拶 10月

いつも上方落語にご声援いただきありがとうございます。
10月に入り、長かった蔓延防止措置と緊急事態宣言が解除され、久しぶりに生ビールで喉を潤し「ビールはやっぱり生やなあ」と呟いてる方が、きっとたくさんいらっしゃると思います。

 おかげさまで、5週間にわたって公演させていただきました「繁昌亭15周年記念特別公演」も、感染者数の大幅減少とともに順調にご来場のお客様も増え、最後を飾る「米朝一門ウイーク」は連日満員の盛況となりました。心より御礼申し上げます。
 お客様からは、「落語は、やっぱり生がええなあ」との呟きが聞こえ、協会員一同アフターコロナへ手応えを感じております。

 生の良さは、何よりその日のお客様と共につくる時間が、どんなものになるかまさに生物といえます。
 そして、生につきものなのはハプニング。それも含めて共有するのが、生の魅力なんです。ひょっとすると、その噺家のターニングポイントの目撃者になる可能性すらあるのです。

 出演者にとっての高座でのハプニングの思い出といえば、若い頃ネタを忘れたり間違ったりの苦い経験ばかりです。
恥を忍んで私のハプニングの思い出を、お話ししましょう。
まず入門して1年が過ぎた頃、大阪の某有名デパートの催しで落語をする営業の仕事でのこと。私の落語の後、若い女性向けの化粧品を紹介するイベントでした。入門1年のぺいぺいの私に客集めの落語をさせる大胆な内容でした。自慢じゃないですが、当時、私の持ちネタは、「道具屋」のみ。なんとか終わったと思ったら、2回目のステージの時間を告げられびっくり。会社からは、1回公演としか聞いてなかったんですが、恥ずかしくてネタがひとつしか無いことを理由に断るわけにもいかず、仕方なく2回目をすることになりました。始まる時間になって客席を見ると、何故かほとんどが同じお客さん。仕方がないので、覚えかけの「青菜」を一か八かすることにしました。案の定、冒頭の「植木屋はん、植木屋はん。もう仕事は、済んでやったんかい。」の次のセリフが出てきません。何回やっても同じところで止まるので、お客さんに事情を説明して「道具屋」を演りました。何故か1回目より受けました。温かいお客さんに助けられました。
もうひとつ落語「時うどん」のオチ。
話の筋は、屋台のうどん屋で勘定の時「・・・五つ、六つ、七つ、八つ、うどん屋!今何時(なんどき)や?」「九つ(夜の12時)でんな」「十、十一、・・・・・十五、十六」「ありがとうさんで」と、一文ごまかすのを知って、アホな男「俺もおんなじようにやったろ」と次の日、宵のうちからうどん屋を探し、いざ勘定になり「・・・六つ、七つ、八つ、今なんどきや」「五つでんな」「六つ、七つ、八つと三文損しよった」となるのが普通ですが、オチで「・・・七つ、八つ、今なんどきや?」「五つでんな」と言わんといけないところ、「九つでんな」と前半のうどん屋の返事をしてしまい「え?九つか?十、十一、・・・十五、十六とうまいこと言った」で終り、オチのない「時うどん」を堂々と演りました。
 
落語は、まだごまかしも効きますが、マジックはそういう訳にはいきません。
先日も共演のあるマジックの師匠。見事な「胡蝶の舞」のラスト、 二匹の胡蝶が蜘蛛の糸になる場面で、手に持った胡蝶を投げると、蜘蛛の糸が固まりのままぼとっと落ちるというハプニングがありました。

マジックは、種を仕込み忘れたら大変です。
若い頃は、勉強のため舞台袖から先輩芸人さんの高座を毎日見ていました。ある大ベテランのマジックの師匠のピストルの火薬を忘れた時のエピソード。
風船をピストルで撃ってバーン!風船が割れたら鳩が出てくるというマジックで、 ピストルの火薬入れ忘れて何回もカチッ、カチッ、カチッ。なんと最後は、口でバーン!それで風船が割れるというそっちの方がすごいマジックを目撃しました。
誰とは言いませんが。

あるマジシャンは、「剣刺し」というマジックで、アシスタントが箱の中に入って消えたというマジックで、消えたよというのを証明するのに、方々から箱に7〜8本長い剣を差すんです。
 箱に剣を刺す細い穴があって、向こうにも通す穴がいくつか開いてる。通す穴が決まってるのに間違ったもんですから、すっと剣を刺したら中でアシスタントが「痛い痛い痛い」「エイ!」「痛い痛い痛い、先生。痛い!」「がまんせぇ、がまんせぇ」
 誰とは言いませんが。

京都花月の進行係(幕の上げ下ろしのボタンを押したり、小道具の出し入れ)は、学生アルバイトがやっていました。
「箱抜け」というマジック。布袋の中に手足を縛って入り箱の中へ、箱をロープでぐるぐる巻きにして、箱の上に乗ったアシスタントが、周りに布を垂らしたフラフープを頭上まで何回か上げたり下げたりしてパッと下げると、箱に入ってたはずのマジシャンが現れて、一瞬にしてアシスタントと入れ替わり一旦ポーズをとり、箱を開けるとアシスタントが、布袋から出てきて2人してポーズをとったところで拍手のうちに幕が降りるという大掛かりで華やかなマジック。
アルバイトの進行係が、アシスタントがフラフープを何回か上下しているときに幕のボタンを押したもんですから、そのまま幕が降りてきて、パッと入れ替わってマジシャンがジャーンとポーズを時には幕が降りたあと。マジシャン「せっしょや、せっしょらや」
誰とは言いませんが、みんな同じ方です。

「やっぱり演芸は、生がいい」
「落語もやっぱり生です」
是非、天満天神繁昌亭で生の舞台を満喫してください。

帰りは、商店街のお酒の提供が復活した飲食店で、久々の生ビールはいかがでしょう。
そこで一言「ビールも落語も生やなあ」

                          

上方落語協会
会長 笑福亭 仁智