落語名所

「落語名所」池田編③

前回の続きから…

6)服部の天神さんで参詣したあとは尻目にころして岡町、そして池田へと向かいます。

これからのさらなる旅の安全を願って一同お参りしたあとは再び国道176号線を北上します。沿道には飲食店も多くあって「この辺りは住みよい街なんだろうなぁ」と思いながらのウォーキングは、足の神様の御利益もあってか足取りはスムーズ。っといってもやっぱり平均年齢50オーバーの我々、疲労の色は隠せません。そのうちに道もだんだん勾配がついてきて少しずつ上っていきます。そうこうするうちに南桜塚交差点に到着しました。休憩を幾度も挟みながらも出発から約4時間。ここまでで約10キロ歩いたことになります。これで全体の約半分。
能勢街道に沿って歩くならここから阪急宝塚線・岡町駅の方面へ向かいます。そちらには原田神社があって、きっと喜六も立ち寄ってお参りしたに違いないのですが、「まぁなんやさかい、もうアレでええやろう」という本日二度目の関西独特な言い回しでパス。このまま歩きやすそうな国道176号に進むことにしました。

池田の猪買いではその次の案内地はいきなりゴールの池田です。ここから池田までは距離もまだまだあるし、電車でも何駅もかかるくらい離れています。なのにいきなりそこまですっ飛ばすというのはどんな理由があるのか?皆で考えました。「説明するのが邪魔くさくなった」とか「大人の事情」とか。でも正解は後にわかりました。特に紹介すべきスポットがないのです(笑)

国道176号線をドンドンと北上。市役所や簡易裁判所に銀行など、先ほどまではうって変わって行政系の建物が増えてきて、そのうち歩道もだんだんと狭くなってきました。自転車の往来も多くなってくるので「後ろから自転車来てまーす」と声掛けしながら、たまに美人な方が来ると色めく方もいながら歩いていきます。
そして出発から約5時間、やっとこさ阪急宝塚線豊中駅の前に到着。市の名前を有する駅名だけあってそら賑やか。ここの駅前で先ほど離れた能勢街道と合流します。ならば再び能勢街道を歩こう!と思いますが、街道はそのまままっすぐ北寄りの刀根山回りの道を取っていきます。ということは山道。5時間も歩いた我々、急がないと池田に着くまでに日が暮れてしまいそう。そうなると「うん、ええんちゃう?」とストレートな言葉でパス。またまた国道176号線を進むことにしました。
ここからの道は山回りの道と比べると平坦でとても歩きやすそう。それもそのはず、能勢街道の方は昔から坂が急でなかなかの難所だったそう、そこで明治27年ごろに豊中駅あたりから石橋にかけて平坦になるよう道を作ったそうな。だからここからの道は新能勢街道とも言われているそうです。そんな道をずっと進みます。ひたすら、ずーっと、黙々と。口には出さないけど皆さん明らかに疲れておりますね。改めて思う、池田は遠いなぁ。

しばらく進むと千里川に差し掛かりました。橋の上には川をのぞき込んでいるおじさんが一人。何があるんですか?とたずねてみたら「ほら、あそこ」。指さす方向は…ヌートリアだ!親子なのか夫婦なのか、2匹のヌートリアが川岸のわずかに緑が茂っているところで仲睦まじくのんびりしておりました。都会の喧騒のなか偶然見かけた動物の可愛い姿に癒されていると、何やら竹林師と笑助師が二人でぶつぶつと。何をしているのかなっと注目してみたら、銃を構えてるつもりで、「どっち撃とか?」『オンにしよかな。』「…オンか?」『やっぱりメンにしよかな。』「…メンか?」『やっぱり…』。おぉ、これはネタの一節!やっぱりこういう時でも実際に体験してみようという落語家魂、素敵です!ただ、ヌートリアは撃たないでね。


【2匹のヌートリア】


【カモもいたよ!】

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7)千里川も過ぎてもうちょっとで豊中市もおしまい。我々はゴールを池田市立上方落語資料展示館・落語みゅーじあむと決めて進みます。目的地まであと少しです!

出発からおよそ5時間半、距離はおよそ14キロ。最近の車なら1リットルでこのぐらい走るのでしょうが、やっぱり平均50歳オーバーの我々、車とは燃費が違います。とうとう「疲れた」「しんどい」「足痛い」という言葉が口から出てくるようになりながら、まだまだ阪急宝塚線沿いをテクテク北上。坂も続きます。ここで「こういうときは甘いものが一番やねん」と、竹林師からチョコレートの差し入れ。あぁ、心とカラダが癒されます。ウォーキングマスターありがとうございます!

少し栄養補給してリフレッシュ出来たら再びトコトコ。その後は中国自動車道や大阪モノレールの高架下をくぐり、そして清風荘一丁目交差点に到着。先ほど豊中駅前ではぐれた能勢街道はあのあと刀根山方面からそのまま大阪中央環状線――いわゆる「中環」――に沿うような形でウネウネ。そしてこの交差点で国道176号線と交差します。おかえり能勢街道!176号線から左へ曲り、今度こそは能勢街道を進みます。
ここからは旧街道らしく細い道がクネクネと続いています。踏切を越えて線路に沿って進んでいくと石橋商店街、とうとう阪急宝塚線の石橋阪大前駅、つまり池田市に入りました!出発から約6時間、距離は約16キロ!よぉ歩いた!
もう目の前の電車に乗りたい気持ちをぐっとこらえながら商店街を進み、赤い橋を越えて右に曲がると国道171号線と国号176号線が交わる井口堂交差点。ここから能勢街道はまた細い道で大阪教育大学池田付属小学校方面を通って池田へと向かいます。で、今から池田に早く着くのは176号線経由。現在は午後4時だからもう少しで日が沈んじゃう。しかも疲れている。もうこうなると「…なぁ。」という、大阪ならではの短い言葉で一同納得し176号線へ。ゴールまではほぼ一直線だ!


【草に埋もれる能勢街道の碑】

ここまで歩きながら、池田の猪買いについて皆で考えました。“喜六という人物は大阪から池田までの結構な距離を歩き、街中ではイカンと山の手で六太夫さんを探し、しかも新鮮なのが良いからとさらに一緒に猪を撃ちに猟へ出かけた。”この事実と今の我々の消耗度を考慮しながら議論。―――そして出た結論、「アホや」。
考察はさらに続きます。“昔の人はいくら足が速かったといっても大阪から池田まではおそらく6時間ぐらいはかかっただろう。だから喜六は夜明けともに出発していたとしても池田に到着したのはお昼ごろ。そこから山で猟をして、しかも「帰りしなにアンタとこで食べさせて」と鍋をいただいている。となると、大阪には日が暮れるまでには帰って来られないのでは?”―――出た結論は「六太夫さんとこで泊まった」、理由は「疲れてるに違いないから」。いくらなんでも初対面の人の家に泊まれるかというと「アホやから平気」。

ネタにいろんな新解釈を加えながら進んでいると、目に飛び込んできたのは市役所や税務署など。駅までもうちょっと。ということはゴールまであと少しです。もうすぐ終わりだと思うと一同俄然やる気が出てまいります。「俺はまだ走れる!」と突然走り出す人、「新築の家を褒めて、ついでに牛も褒めに行こう!」と違う池田のネタの話をする人、「美味しい牡丹鍋が食べたーい!」と飯のことばかり話す人。それぞれ思い思いの方法で最後の力を振り絞りながら阪急宝塚線池田駅へ到着。
そこから勘違いをして道を間違え、ぐるっと遠回りして日が暮れる寸前にやっとこさ落語みゅーじあむに到着。大阪を出発してからおよそ7時間、距離にして約20キロ。歩数はなんと3万歩を記録しておりました。いやー、本当に遠かった!こんなに歩いたの初めて!足は痛いを通り越して痺れているような感覚。昔の人はこれだけの距離をよくも平気で歩けたもんだなぁっと感心するとともに、ここからさらに猟に出かけた喜六はやっぱりアホだったと確信しました。


【ゴール!みなさまお疲れ様でした】

ところで、ここから猟に出るとなるといったいどこに向かったのでしょうか?実は出発時から皆が気になっていて、これだけはいくら議論しても結論が出なかったのです。
「能勢や妙見さんの方へ向かったのか?…いくらなんでも遠すぎるなぁ。」「もしかして五月山?…ウォンバットは居てるけど、猪なんておるか?」「まさか千里山とかそっちのほう?そっちはもっと非現実的。」などなど。
もう調べる気力なんてないので落語みゅーじあむの職員さんに尋ねてみました。すると、なんと意外なことに正解は…我々だけの内緒にしときまひょ(笑)気になる方は5人のうち誰かをつかまえて聞いてみてください♪

疲労感は半端なかったけど、実際に自分の足や目や肌で感じてみないとわからなかった、ひょっとしたら知らないままだったかもしれないことを多数経験できた。この経験と思い出は何事にも代えがたい貴重な財産になることは間違いないと思いました。今後我々が「池田の猪買い」をするときは、一層リアリティを増した素晴らしいものになっているに違いありません。
これからもあちこち落語の舞台を実際に体験してみて落語家としての幅を広げるとともに、その道中記を面白おかしく皆様にお伝えいたします。今後もどうぞお楽しみに!長文お付き合いありがとうございました!

最後に、池田の商店街で猪肉は普段から出回っているわけではないこと、それから阪急電車で池田駅から大阪梅田駅まではたった20分で着くことをお伝えいたします。

文・林家愛染
写真・笑福亭恭瓶

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