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寂しくなりました

昨年から今年にかけて、上方落語協会の会員の訃報が相次ぎました。

桂三弥、桂三金、笑福亭鶴志。

少し時間が経ってしまいましたが、とくに仲のよかった方たちの追悼文をご紹介するというかたちで、順を追ってお伝えしてまいります。

まずは桂三弥君です。

笑福亭仁福さん、桂坊枝さん、桂三若さん、桂三ノ助さんにお願いしました。

三弥君へ   笑福亭仁福

三弥君、君はいつも協会会館三階で落語のCDを聴いてましたね。
落語の勉強をしてましたね。

三弥君、君はよく先輩や師匠方に落語のネタを付けてもらってたらしいですね。
常に落語の勉強をされてましたね。
僕の所にも、稽古に来ましたね。

「壺算」を教えて下さいちゅうて。
僕の教え方が悪かったんでしょうね。
プロ・アマ問わずあんなひどい壺算聞いたことなかったです。

君は本当に落語が好きなんだなと僕は思いました。

三弥君、君は男気のある頼りになる方でしたね。
君に頼みましたね。明日必ず出囃子のCDを持って来て下さいね。
君は分かりました。僕に任して下さいちゅうて次の日、出囃子忘れましたね。
僕がどうするの?と君に聞きましたね。
僕に任して下さい。自転車で来てますので、落語協会の事務所で借りてきます。
15分ぐらいで帰ってきます。さすが三弥君、お頼みしましたよ。

1時間後汗だくになって帰って来ましたね。
もう始まってるんやけど、僕1時間延ばしてんねんけど、遅いねどうしたの。
すんません、自転車パンクしたんです。
僕は気絶しそうになりました。
それで出囃子のCDは、
あぁ忘れました。

そんな三弥君、私好きでした。
なんや自分を見てるみたいで、

僕は三弥君を忘れることはないでしょう。
また何処かで逢える気がしますわ。

〝神〟にあこがれて逝ったんか   桂坊枝

マクラでウケた時には照れたように、
とても嬉しそうに、時には高座であるにもかかわらず間ができるほどの笑顔を見せる。

実に正直な男である。
正直ゆえの頑固者で世渡りはヘタ。

それだけに彼の人間的魅力に魅せられると互いに気の置けない付き合いになり、
彼の年齢からは考えられないほどの愛おしさを覚え、その関係が永きに亘り続いていく。

彼は演じるのが得意ではなかったんだと思う。
それは彼の落語・高座のことではなく
落語家桂三弥を演じ続けるのが嫌だったのではないかという意味だ。

人生楽しいことより、辛くて思い通りにならないことの方が多く苦しいものなのに、
落語家という仕事ゆえ、常にニコやかに愛想よく楽しそうに振る舞わなければならない。
その度合や生き方は個々によって違うが、一般の方であれ、芸人であれ、それぞれが人生を演じている。

そして楽しそうに演じていると自身も楽しいと錯覚してしまい
実際に楽しくなり人も寄って来てくれる。
彼は自分を欺き演じ続けることが嫌だったのだ。
なら彼は単なる我儘者だったのか。
いや違う。
彼は演じることなく、
ご来場のお客様や周囲の人が喜び心底から楽しんでくれる人間になりたかったのだ。

これは崇高なる芸人のあるべき姿であり人として最も理想的な生き方で
我々の先人でも〝神〟と呼ばれるひと握りの方のみを称する真境地である。
だから彼のことを「不器用」「演じるのがヘタ」などと言っている私を
「兄さん、まだまだやなぁ、人はちゃんと見てまっせ」
と微笑みながら猪口を片手に上から見ていることだろう。
三弥、もういっぺんあんたと飲みたい。

野球と酒と   桂三若

今から29年前、大学3回生の時に僕は三弥君と初めて出会いました。
当時、僕が所属していた落語研究会に新入部員として彼が入ってきたのです。

初めて会った日は二人でドッジボールをしたり手打ちをしたり、子供のように遊び続けました。

まだ彼は芸名もなく三成が本名なのでミナリッチと呼ばれてたが、貧乏でした。
その貧乏な彼にカレーを奢ってもらいました。
この時はそのことをこれから28年間言われ続けるとは夢にも思いませんでしたが。

それから彼は芸名を馬奮(バフン)と名乗りました。
「いや、バフンって!馬の糞やん」
「違います!馬が奮闘するんです」
というやり取りを1000回はしたと思います。

そして馬奮から三弥となり、また一緒に過ごせるとなった時は嬉しかった。

一緒に野球をしてはお酒を飲み、お酒を飲んでは喧嘩をして、
野球をしては喧嘩をして、たまに仕事もした。
とにかく酒を飲むと熱くなる男で逸話も多い。

「三弥、俺はほんまに悔しいわぁ。
お前にはぎょうさん兄弟がおったのになんでもっと頼ってくれへんかってん。

会ったらどついてやりたい。
嘘、どつけへんからもういっぺんだけ会いたい。

飲みたいなぁお前と。なでなでしながら飲むわ。いや頬擦りするわ!嫌がるよな?

こんなこと書いてたらまた涙が止まらへんやん。

今でも十三の居酒屋で飲んでると、フラっとお前が現れるんちゃうかと期待してまうやん。

ほんとに悔しくて怒りたいけど、絶対にこれだけは直接言わせてな

『ありがとう三弥』

ゆっくり休んで、ベタやけどあの世で美味しいお酒を飲んでな。
また会える日を楽しみにしてるからな。」

三弥君の思い出   桂三ノ助

今年は天中殺のような年ですが、
昨年は一門にとってのそれでした。

一門の中堅、番頭的存在の三金と三弥が
相次いで急逝しました。

二人は三ノ助と同い歳で、すぐ上と下の兄弟弟子。
伴に48歳で年男、これからというときでした。

三金兄さんについてはまた執筆の機会があるかと思いますので
本日は三弥君の思い出のみを語ります。

普通こういう追悼の文を書くとき故人はしんみりとしたことが嫌いだったので
明るく笑えるエピソードを語りますという一文から展開するでしょうが、
いたってそうでもなかったので、しんみりと書きます。

実は三弥君は学生時代(落研)の一学年後輩だったので、
もう30年来の付き合いということになります。

神戸の某大学で、先代文枝一門の坊枝師匠や同門の三若兄さん、
三味線の故・山澤由江師匠、はやしや美紀さんも学閥になります。

学閥の落語会をするときは、一番後輩だった三弥君が
前座的役割を果たしてくれてましたが、文句ひとつ言わず引き受けてくれてました。
でも十三に帰ってひとり愚痴を言いながら呑んでいたそうです。

師匠に入門したのも一年後輩で、修行中は共同生活をしており
師匠をお送りした後はよく二人で飲み明かしました。

お酒に呑まれるタイプで、泥酔するのは当たり前。
朝もギリギリまで寝かせてあげようという親心、兄弟子心で
起しに行くと「やかましいわい!」と怒られる始末。

師匠の車の運転も私の方が少し(いや大分)運転技術があったため
ずっと三弥君を助手席に乗せてドライブさせていただくという
実に優秀な弟弟子でした。

また二人とも野球が好きで、
共に噺家草野球チーム「モッチャリーズ」に入団しました。

高校時代陸上部の三弥君、盗塁王を目標に頑張っていましたが、
とにかく打てず塁に出れませんでした。これでは盗塁できませんね。

というのも呑み癖は相変わらずで、
たいてい二日酔いで来て外野を守りながらえずくシーンを何度も見かけました。

そんな三弥君もチームでは愛される存在で、
背番号38(さんや)の残したユニフォームを掲げながら
毎月曜日、大阪市内のグランドで試合に臨んでおりますので、
ぜひ三弥君の思い出に浸りながら観戦しに来てください。

三弥君へ思いを馳せる会
●10月10日(土)18時
「桂三ノ助25周年独演会~三金三弥と共に~」
桂三ノ助が三金三弥の所縁の噺三席
神戸新開地・喜楽館

●10月17日(土)18時30分
「第三回神戸学院寄席」
坊枝、三若、三ノ助 三味線・美紀
神戸新開地・喜楽館

筆者(桂枝女太)は現在「モッチャリーズ」の監督を務めてています。
試合の前日に落語会があると、打ち上げで飲み過ぎるんでしょうね、
必ずといっていいほど遅刻してきます。
でも憎めない奴でした。
三弥君のことを嫌ってた者は一人もいなかったと思います。
ええ加減な奴やと思ってた者は・・・みんながそうでした(*^_^*)

次回は三弥君の兄弟子にあたる、桂三金君を追悼します。

桂枝女太

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