将来の名人

将来の名人に聞く 【笑福亭大智】

笑福亭大智 しょうふくてい・だいち
兵庫県尼崎市出身
2013年10月 笑福亭仁智に入門

《バイク好きの青年は、ノストラダムスの大予言を信じていた》 

──入門前は俳優をやってたんやっけ?

いえ、一番最初は板金屋に勤めてました。僕、単車を触るのが好きやったんで。ある日、屋根を修理してる時、 親方に「いつ、車に触らしてくれるんですか?」って聞いたら、「何が?」と言われて…。僕がいてたのは建築の板金屋やったと、そこで気づきました。その頃は「ノストラダムスの大予言」を信じて、1999年に地球が滅亡すると思ってたんで、結構、適当に生きてたんです。

──そういう問題ちゃうと思うけど(笑)。

それで、「やめます」って言うたら「この根性なし!」と親方に怒られたんで、そのまま続けてたんですが、1999年、地球が滅亡しなかったから「やっぱり落語家になりたい!」と思って、入門しようと考えました。でも、今と違ってインターネットもそこまで普及してなかったし、なり方がわからなくて。友達に相談して、俳優になることにしました。

──いや、なんでやねん(笑)。

ほら、着物着てるでしょ。

── あー。だから、時代劇の俳優をやってたんやね? それから?

それで、結婚をしまして…。

──え? 落語家は!?

いや、嫁さんが女優をしてたんですけど、「私が食べさせてあげるから」と言われて結婚しました。

── へー(どういうことや…?)


俳優時代の勇姿(本人提供)

《俳優を辞めたあと仕事を転々。「やっぱり落語家になりたい!」》 

で、子どもができて、食べさせていかなあかんので俳優を辞めていろんな仕事をしてました。けど、嫁さんが仕事で枝雀師匠に会ったことあるとか(※筆者注 奥さんは子どもの頃から俳優)、そういう話を聞くと「落語家になってたら、どんな人生やったんやろう?」って寝る前に 考えてしまうんです。元々、中学の時に立川志の輔師匠に憧れてまして、「一人でこんな面白いことできるんや」って。それから嫁さんにも勧められて、いろんな落語会に行って、めっちゃいろんな師匠方の高座を見ました。

──例えば、この師匠の、このネタがすごく心に残ってますとかある?

それが、全然、覚えてないんです。

──なんでやねん!(笑)

けど、その中の落語会に、たまたまうちの師匠、笑福亭仁智が出ていて「うわー、この人、おもしろいな!」と思って。で、別の落語会に行ったら、 また師匠が出てて「うわー、やっぱりおもしろい!」と思ったんですよね。でも、その時、僕、34歳で、もうええ歳やからきっと弟子入りは断られると。

──それでも入門を志願した?

というか、ええ歳やし、あかんかもしれんけど、とりあえず、言うときたいなと。

──後悔したくないもんね。

師匠に命じられました。「君、ええ歳やろ。でもやりたいなら、落語一つ覚えてきなさい」。それで「ちりとてちん」を覚えていきました。たどたどしかったと思いますけど、それで、落語家の仲間に入れてもらえたんで、師匠にはほんまに感謝しかないです。

──その「ちりとてちん」を聞いて、師匠は何か言うてはったん?

……まあ、素人の落語ですから、聞いてられないじゃないですか。

──ほな、その時、なんで「ちりとてちん」をやったん?

いや僕、そんなに落語のこと知らなくて。落語会に行ったら「あ、これ、聞いたことある噺やな」と思ってたら、実はタイトルがあるって知ったぐらいです。

師匠から「君、何かネタできるか?」と聞かれ、とっさにひねり出したのが「ちりとてちん」という言葉で…。

「だいぶ長いけど、大丈夫か?」と師匠に問われて「長いんや…」と思ったぐらいで。

師匠には感謝、感謝です。

《落語家になれたことが、夢のよう》

──兄弟弟子の智丸くんとは同期入門やけど、どんな関係なん?

智丸さんは落語に詳しいんで、めちゃくちゃ助けてもらいました。元々、落語家が寄席囃子の鳴り物を打つのも知らなかったですし。

──けど仁智一門って、みんな仲良いよね?

そうですね。智六兄さんは、僕が修業を終えて年季明けした時にお祝いのパーティーを開いてくれました。智之介兄さんもよく遊んでくれて。いろいろ、ほんま、 感謝してますね…。もう、落語家になれたことが夢の中にいるような感じです。

──これから何かやりたいとかある?

もう、これを維持していくのが…ね。

──けど、勉強会とか怪談噺とかいろんなところで頑張ってるよね。

はい。ありがたいことに、いろんなところから、声をかけてもろてやらせてもらってます……。

──今、一番、楽しいのは?

落語、ですね……。

──さっきから、全然話が広がらへんねんけど(笑)

いや、実は僕、この「将来の名人」のインタビュー、前も受けてるんです。

──えっ!? そうなん?

某師匠が2時間ぐらいインタビューしてくれはって「めっちゃ感動したわ! 泣けるなぁ」て感激してくれはったのに、一向に記事にならなくて…。

(※筆者注 あとで上方落語協会事務局の「んなあほな」担当者に確認すると、「コロナ禍の前にインタビューされてたんですけど、某師匠が突然『ワシはもう筆を折る』という謎の理由でお蔵入りになった」とのこと)

そのとき、2時間しゃべったんで、もうそないにしゃべることないなぁって。

──いや、それ、コロナ禍前やから6年以上前やん! ほな、最後にこれからやりたいことはある?

もう、落語家になれたことがありがたいんで、不祥事だけは起こさないようにしたいと思ってます!

── ええー! そこ!?(笑)

 

<インタビューを終えて>

大胆なようで臆病なところがあり、いい加減なようで義理堅い。そんな笑福亭大智くん。

インタビューもなんとなくのらりくらりではあるが、気取らない、不器用なところが、古典落語の登場人物のようでもある。だから、 大智くんの落語は無理がなく、スッと噺の世界に入れるのかもしれないな、そう思うインタビューでした。

文・写真 月亭天使

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