古典落語の舞台のみならず、幅広く上方の名所を巡ろうということで、木津川に架かる千本松大橋、通称「めがね橋」を取材して参りました。
林家そめすけ師匠の大阪人情落語24区の新作の中には、この千本松大橋が舞台のズバリ、『めがね橋』という大正区を描いた名作があります。水の町、八百八橋の大阪に相応しい機会になりました。
参加者は笑福亭竹林師匠、笑福亭恭瓶師匠、林家愛染御兄さん、笑福亭智丸。
今回から「んなあほな」編集委員の末席に参加させていただくことになった智丸がレポートを担当します。
七月末の某日。今年はなかなか梅雨が明けず、この日も天気が心配でしたが、幸い雨が降ることもなく、かといってカンカン照りでもなく、曇り空の程よい気温の中、天下茶屋の駅前で集合して徒歩約30分。
向こうの方に巨大な螺旋が見えてきました。
1973年(昭和48年)木津川河口の大正区南部と西成区を結ぶ川橋として建設された千本松大橋。橋の両側が螺旋状になっており、上空から見下ろすとまるで眼鏡のように見えることからこの通称で呼ばれるようになりました。
大正区は工業地帯として栄えていましたが、水運に恵まれている反面、陸を行く自動車は遠くまで迂回しなければならなかったため、それを改善する目的で築かれたそうです。
私は生まれも育ちも大阪ですが、実はめがね橋を見るのは初めて。
恥ずかしながら白状すると、発案者の竹林師匠から最初、「めがね橋に行こう!」と言われたとき、頭の中では長崎で有名な、あのめがね橋(二つの半円が水面に反射して正面から眼鏡のように見える石造りアーチ橋)のイメージが出来上がってしまっていました。
ふーん、天下茶屋にそんなかわいい観光スポットがあんねんな、竹林師匠って意外とかわいい趣味持ってはるな、…まさか俺が眼鏡かけてるから誘われた?
そのようなことを思案しながら参加させていただくことになったものですから、新参者のくせに、完全に遠足気分のゆるい気持ちでろくに調べもせず当日を迎えて、先輩方と楽しくお喋りしながら歩いていると、突然、目を疑うようなバカでかい橋の螺旋部分が見えてきて、腰を抜かしそうになりました。
「お、思ったより大きいんですね」
「智丸君、初めて? レンズのところ、車で通ったら疲れるで」
このようなやり取りがあってもなお、勘の悪い私はやはり、これは垂直方向に横から見ることで水面の反射でバカでかい眼鏡のように見える橋なんだ…、と信じて疑いませんでした。先入観とは恐ろしいものです。
螺旋の歩道を上りつつ、
しかし、いくらなんでも、さすがに、こんなでかい橋、眼鏡に見えるか?
少しずつ不審に思いながら、先輩方に、
「これ、(横から見たら)さぞかし巨大な眼鏡に見えるんでしょうね」
「グーグルマップで見たらわかりやすいで」
ここに至ってようやく、
(……上から!)
謎が全て解けたと同時に自分の無知加減に気づいた頃には、螺旋の歩道も中腹まで来ていました。
≪ウィキペディアより 国土交通省国土画像情報(カラー空中写真)を基に作成1979年≫
車両の交通量も多く、遠目に見ると徒歩で渡ることができるのが意外に思えるほどスケールの大きな川橋です。カーブ、斜面、距離となかなかのものですが、なんと自転車で通行される方もいました。結構気合いが要ることと思いますが、下るときは楽しそう。
いわゆるインスタ映えしそうな風景ばかりで、皆で沢山写真を撮りつつ螺旋を上り切ると、いよいよ橋を渡ります。
高さ36メートル。川の真ん中ですから周囲を遮るものはほとんどありません。
12階建てのマンションに相当する視点から大阪市内を広範囲で見渡すことができます。あべのハルカスや京セラドームも彼方に見えて壮観です。風が爽快です。
大型船が安全に航行できるようこの高さが必要だったようですが、実際に上がって川を覗いてみるとちょっと怖さを感じるほど。
橋自体の長さは323.5メートル。遠めに見たイメージよりは、思っていたより早く向こう岸、大正区側の螺旋部分にたどり着くことが出来ました。下りはらくちん。
螺旋を降り切ったところに渡船場があり、朝の6時から夜9時過ぎまで15分に一回程度の回数で運行しています。こちらはなんと無料。橋を渡る労力を考えると、住民の生活には不可欠です。
皆さん、自転車でバス停に待つような感じで並びます。それだけ地元に根付いた交通手段であることが伺えます。
汗水垂らしながら、橋を上って、渡って、下った時間がおよそ30分。
今度はゆっくり川の風情を楽しもうとウキウキして船に乗り込んだのですが、そんな間もなく、今歩いた橋を見上げているうちに物凄い勢いで船は向こう岸へ。
その所要時間、なんと2分!
便利です。
来た道を歩いて天下茶屋駅で解散と相成りました。短時間ですが濃密な取材でした。
大阪人が地元をちょっとした観光気分で楽しめる。歩いて行って船で帰る、プチ東の旅気分の千本松大橋訪問レポートでした。
めがね橋、皆さまもちょっとした気分転換にぜひ。お眼鏡に適うこと間違いなしです。
こちらの企画では、今回のように幅広く名所を巡っていきます。
皆さま、おすすめの名所スポットがあればご推薦くださいませ。
文・笑福亭智丸
写真・笑福亭恭瓶