将来の名人

将来の名人に聞く【月亭秀都 編】


繁昌亭での独演会 まさに桧舞台!

月亭秀都 つきてい・しゅうと 兵庫県姫路市出身
2014年4月 月亭文都に入門

笑いのシュートを決める! 「お客様とのご縁を大切に」

≪入門10年を迎えた2024年6月、天満天神繁昌亭の夜席と、地元の姫路キャスパホールで初めての独演会を開催した≫

お客様が「応援してあげよう」という優しさあふれる雰囲気を作ってくれはりました。
その中で、思い入れの深いご当地噺「皿屋敷」など精一杯の3席をしゃべらせていただきました。改めて感じたのは、お客様に支えられて今があるということ。これからもお客様とのご縁を大切に精進していこうと心に誓いました。

≪高校時代に落語を知り、進学先の関西大学では、当代桂文枝師匠をはじめ、落語家を数多く輩出している落語研究会に入る≫

落語を聴きはじめたのは高校3年から。
好きだったのは桂枝雀師匠です。ラジオや、CDの全集で枝雀師匠の噺を聴きまくって興味があったので、大学では落語研究会に入りました。新しい生活で、ゼロから始められる部活をしたかったんです。芸名は「千里家笑入」=せんりや・しいる。老人ホームの慰問とか、よく行きましたね。


落研時代の高座

≪充実の学生生活を送っていた3回生の秋。ある落語会が転機となった≫

繁昌亭で開かれた月亭八天(現・文都)師匠の独演会を聴きにいきました。
師匠の演目は、上方落語屈指の大作「らくだ」、東京落語「粗忽長屋」の上方バージョン、それに文楽、歌舞伎の「夏祭浪花鑑」の落語版。その幅の広さ、芸の深さに魅力を感じ、あこがれました。大学を卒業後、就職せずにいったんフリーター生活を送るんですが、それは噺家になるため。2014年の2月から3月にかけ、楽屋の外で出待ちをして、文都師匠に入門をお願いしました。(※1)
師匠は、「もっと、いろいろ寄席を見て、よく考えなさい」
その後もお願いにうかがうたび、師匠から何度も念を押されました。
「ほんまに噺家になる覚悟はあるか」
「親御さんを説得できるか」
5月にようやく正式に入門がかない、芸名をいただきました。

≪師匠宅の近所にアパートを借り、毎日通う生活が始まった。弟子修業期間中、大失敗をやらかして丸坊主になったことがある。それも2回≫

師匠宅の掃除、洗濯、飼い犬の散歩などなど、家の用事をやりながら、師匠のかばん持ちで楽屋に出入りさせていただく毎日です。
丸坊主は師匠から命じられた? いえ、ちゃいます、自主的にです。2回とも(笑)。

最初は、ダブルブッキング。師匠への出演依頼の連絡を私が受けて、その仕事を師匠のスケジュールに入れたんです。同じ日時に他の仕事があったのに気づいたのは、そのあと。依頼してくれはった相手に師匠は平謝り。私が恥をかかせてしまい、反省を形でお示ししようと散髪屋さんへ。
次は、忘れ物です。「祇園花月」(※2)の師匠の出番で、なんと長襦袢を持ってくるのをうっかり忘れてしもたんです。衣装を包んだ風呂敷を楽屋で広げて気づき、真っ青になりました。その日は2公演。1回目の公演のあと、長襦袢を取りに大急ぎで大阪の師匠宅へ。電車で往復する間、10分でカットしてくれる散髪屋さんに飛び込んで頭を丸め、また楽屋へ。2回目の公演になんとか長襦袢を間に合わせました。
私の坊主頭を見た師匠は「アホ!そんなヒマがあったら、はよ楽屋に帰ってこい!」。

3年余りの修業期間中、休みは一日もありませんでした。くたくたになって、心身ともにきつい時期もありました。そんなとき、師匠からいただいた言葉は今も忘れません。
「もっと厳しくするが、迷わずついてこい」
励みになった言葉です。


丸坊主のころ

≪小、中学生時代の部活は野球だった。高校球界の名門、東洋大姫路でも野球部に。芸名は部活にちなんでいる≫

子どものころは野球漬けでした。実は、芸名の由来は変化球のシュートボールなんです。
「噺家ならひねりの利いたことを言えるように」「お客様の胸元をえぐることができるように」という思いが込められています。
「しゅうと」という名前から「サッカー部だったんですか?」とよく聞かれます。入門したときはちょうどサッカーのワールドカップ・ブラジル大会で世間が盛り上がっていて、「笑いのシュートを決められるように」との意味もあります。野球をやってたおかげで、ベンチや外野で大きな声を出していたのが、入門してから高座で活きています(笑)。
今、噺家の草野球チーム「もっちゃりーず」に所属しています。ポジションはレフトかセンター、打順は1番か2番が多いですね。けっこう小回りの利く選手ですよ!

≪いずれ、挑戦したい演目がある。そして、落語家としての理想像は…≫

入門のきっかけになった会で聴いた「らくだ」は目標にしています。
今はムリでも、いつか「百年目」とか、商家の旦那を描けるようになりたい。
あと、70歳を超えても独演会で3席、バリバリやれるお元気な師匠がたはカッコええですね。大師匠の(月亭)八方師匠みたいな。自分もそうなりたいです。

文・んなあほな編集部

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編集部注
(※1)月亭文都の襲名(八天改め)は2013年3月。
(※2)よしもと祇園花月。吉本興業が運営する京都の演芸場。昼の公演は漫才と新喜劇が中心だが、落語が1席入ることもある。

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