桂福車 逝く
桂福團治門弟の福車が平成30年2月1日、56歳の若さで旅立った
「福團治に弟子入りした福車です、よろしくお願いします。」
出会いは35年前、彼が昭和58年11月に入門して、しばらくたった島之内寄席だったと思う。
清水谷高校を卒業し、難関の公務員試験に合格。吹田千里郵便局に勤務しながら二足の草鞋を履いていると言う。
すぐに落語一本で生きていくことを決意した。
私より1歳下で入門は半年違い。
次第に私に対して敬語を使わなくなり、呼称も「兄さん」から「坊枝さん」になった。
頭のいい彼は、私を見ているうちに敬語を使う値打ちもなければ、兄さんと呼ぶ必要もない男であることに気がついたのであろう。
私も、賢く会話も面白い彼と距離のない付き合いをしたかったので嬉しかった。
福車君と呼ぶのも他人行儀に思え〝福〟の付く人が多いので下の〝車〟を取って〝しゃーやん〟と呼ぶことにした。
高校の落語研究部の後輩、実恵さんとの結婚。披露宴会場は北浜の老舗料亭「花外楼」。
そして長男の建大(たつお)君、長女の萌恵(もえ)ちゃんの誕生。
うちの子とは年も近いので家族でよく遊びに行ったものだ。
須磨海岸や、ひらかたパークのプール。
笑福亭学光兄さん主宰の落語家の阿波踊りのグループ「噺家連」にはともに家族で参加した。
毎年9月の上方落語祭り「彦八まつり」では、ほろ酔いの萌恵ちゃんが缶ビール片手に五代目文枝一門の焼うどんの屋台に来てくれて、
「福車の娘やからオッサン(父)が嫌いな◯◯ビールは飲んでませんよ」と車やんそっくりの口調で笑わせてくれた。
こうして妻同士、子ども同士も仲良く楽しく過ごす日々が続いた。
「上方らくごカルテット」は20年以上前に、
福車・春雨・文昇・坊枝のほぼ同期の4人が北区民センターで立ち上げた勉強会で、
天満天神繁昌亭が開場後は場所を移し昨年、第100回を迎えた。
落語会を長く続けることは難しいことも多いが、私以外の3人は幼いころから生活が苦しく
艱難辛苦を舐めて育ってきたからなのか、逆に裕福でボンボン育ちで気がつかないのか、
私が何もせずに勝手なことをしていても辛抱強く20余年間、揉め事もなく和やかに楽しく続けることができた。
車やんは主人公が彼そのものだと思えるような素晴らしい「らくだ」など大ネタでお客様を魅了し、
時には辛辣・奇想天外な新作でファンを集め落語会とメンバーをリードし続けてくれた。
正義感が強く、相手によって言動・態度を変えることなく弱者のことを考えて行動ができる車やん。
力のあるお方に全力で見え透いた媚を売る私とは正反対の性格。
おのずと先輩後輩を問わず人望が厚く、人権関係の講演の依頼も多く、
若くして大阪市内に建てた一戸建ての吹き抜け螺旋階段のある立派なマイホームの
落成のお祝いにも家族で行かせてもらい、美食家の車やん自慢の手料理を楽しませてもらった。
車やんとの最後の時間は、1月18日の繁昌亭での第104回「上方らくごカルテット」で、
ネタは「大阪人は誰だ?」(作・神崎京一)。
少し風邪気味だったが、「このネタよう受けるんで最近は鉄板ネタにしてんねん」。
その言葉通り大爆笑で、打ち上げでも普段通りだったのに、その2週間後に逝ってしまうとは。
「最近はこれが鉄板ネタ…」言うてたやないか、もっともっとやるんと違うたんか。
大好きな実恵さん、大学院出の優秀な建(たっ)ちゃん、
アパレル関係で大きな仕事も任せられるようになって、バリバリ働きだした美人の萌恵ちゃん。
福車の落語、福車と飲むのを楽しみにしてた人、
今笑うてたと思たら昔のことで突然に真赤な顔をして怒りだすあんたが突然おらんようになった。
ワシらはわけがわからんねん、ただただ茫然とするだけの毎日やねん。
お通夜にはお参りできたけど告別式にはどうしても行けなんだんで送った弔電を最後にそのまま記します。
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車やん、ようあんたに怒られましたなぁ。
「坊枝さんマクラ長いねん」。
同期会の「上方らくごカルテット」で高座から降りてくるたんびに言われてましたわ、その通りでした。
けど初めて言わせてもらうわ。
「短すぎるで車やん」。
もっと福車落語をファンに聴かせてから逝かんとアカンやろう。
もっと楽屋で、打ち上げで、真赤な顔をして怒り続けるんとちごたんか。
娘さん萌恵ちゃんのことが、かわいいてかわいいてしゃぁなくて
結婚式の晴れ姿を泣きながら見るんとちごたんか。
この場ですぐに、あとを追いかけるほどはアンタのことは好きやないけど
辛いわ、車やん
桂坊枝
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文:桂 坊枝
桂福車追善の落語会
4月3日(火)18:30開演 天満天神繁昌亭
「桂福車を偲ぶ福團治一門会」
出演:福團治、福楽、福矢、福楽、桂福車を偲ぶ鼎談/福楽・花團治・坊枝・小染・春雨
4月6日(金)18:30開演 天満天神繁昌亭
第105回「上方らくごカルテット」
出演:坊枝、春雨、文昇、福車(厳選映像での一席)、智丸